三年寝太郎ライフ
人生にも、ほっと夏休み
ネパール旅行記

ネパール旅行記 第十話 友が去った後で

”コンコン”

ドアをノックして部屋に戻ってきたのはさっき数分前に怒って出て行ったばかりの友人だった。

友人「悪かった、ちょっとさっきのは大人気無かったよ」

友人「紛失したのは僕のミスだ、ゴメン」

私「分かってくれたならいいよ」

切り替えが早過ぎて、こっちの気持ちまで理解してくれたのかは謎である。

私「一言加えてさえくれれば、何でも無い話だったんだ」

私「もし仮に僕が何も言わずに黙ってたとしたらどうだろうか?」

私「君に対するネガティブな気持ちは、やがて積もり積もって疑念に変わり、結局いつか関係は終わりを迎えることになってしまうだろう」

私「だからこれは必要な通過点なんだ、真の友情にとってのね」

私「君には繊細過ぎるかもしれないけれども、これが僕さ」

私「兎に角戻って来てくれて有難う」

筋肉痛でパンパンになった足に力を入れて踏み出して友にハグをする。

なんてアメリカンな私だろうか。
まるでビバリーヒルズ青春白書みたいだ。

顔はすっかり日焼けしてネパール人みたいなのに。

私「よし飯行こうか!」

ロビーで合流してから四人で湖畔のレストランに向かうことになった。

レストランの真横では、小型の観覧車が高速で回転している。
こんな高速回転する観覧車を見たのは初めてだ。

聞くと、ロシア人とトルコ人の二人は初日にあれに乗ったのだと言う。

相変わらず饒舌なベルギー人、終始明るく陽気なトルコ人。
向かい側で、比較的無口なロシア人のイリアがシーシャを吸っている。
私は沢山の蚊が足にまとわりついてきて痒くて仕方がない。

店内のステージではインド風音楽のライブが行われていてとても賑やかだ。
女性ボーカルの前ではインド人風の二人組が体をくねくねさせながらヘンテコなダンスを踊っているのが見える。

翌朝、午前中の国内線でベルギー人とトルコ人の友はカトマンズへ戻って行った。
彼らのドバイ向けフライトは一日早い為だ。
私は800ディラハム(約3万円)を節約する為に出発便を1日遅らせてある。

それにしても疲労と筋肉痛のせいで、ベッドから動けない。

去っていく二人の後ろ姿を見たのは、イリアがシェアしてくれた動画の中でだ。
”さようなら、またドバイで会いましょう”とワッツアップでメッセージを送る。

さてと、今日はランドリーショップに預けてあった洗濯物を取りに行かなければならない。

仕事のメールを全てチェックしてから、無様な足取りでホテルを出発した。

ゆっくりと引きずるようにして洗濯屋まで歩いて行かなければならない。
途中で休憩も兼ねてコーヒーでも飲もう。

カフェの前でネパール人の店員さんが笑顔で声をかけてくる。

私「モモスはあるかい?」

店員さん「モモスは無いわ、あっちの店ならあると思うわ」

私「有難う、行ってみる」

二十歩ほど歩いて、向かいの店に行って尋ねると、モモスは置いてないようだ。

再びさっきの店の前を通り、店員さんに首を横にふって見せてからメインストリートに戻る。

それから別のレストランでマンゴージュースとモモスを食べてから、ようやくランドリーショップに辿り着いた。

なんと、閉まってるじゃないか。

店のすぐ横で若いネパール人女性が、洗濯物を店の敷地内に入れようとしている。

私「ねぇ、ちょっとこの番号に電話して聞いてくれない?」

女性「いいわ、貸して」

私のスマホをぽちぽちと触ってもらい、洗濯屋に電話をかけてもらうことにした。

何故かって?

何故なら洗濯屋には英語が全く通じないからだ。

彼女曰く、今日の夜9時以降なら店主は帰ってきてるという。

私「有難う」

帰ろうとする私。

女性「ちょっと待って、私の洗濯籠を持ち上げてくれない?」

さっき洗濯屋の敷地にほり込んだ洗濯籠を柵の上まで持ち上げて欲しいというのだ。

はち切れそうなパンパンのふくらはぎを引き摺りながら柵に向かい、頑張って洗濯物を持ち上げる私。

それを柵の上から受け取る彼女。

初めての共同作業だ。

そして最後の共同作業になる。

再び足を引き摺りながら、重い足取りでホテルへと戻ることにした。

イリヤ、私を一人にしておくれ

ベットの上で布団に包まってゴロゴロしていると、イリアが執拗にランチにディナーにと誘ってくる。

ランチは食欲不振を理由に断った。
嘘では無い。

あいつはほんとにクセが無くていい奴だ。
私はこんなにクセだらけなのに。

イリア「夜八時くらいに一緒にディナーに行かないか?」
私「良いね、でも洗濯屋に行かなければならないんだ」
イリア「なんで?今朝行ったんじゃ無かったのかい?」
私「それが、洗濯屋は閉まってたんだ」
イリア「じゃあ洗濯屋に行った後でも構わないよ、何時でも」
私「分かった、じゃあ洗濯屋から戻ったら連絡するよ」
イリア「OK」

ちょっと一緒に行くのが面倒に感じてしまったのには二つの理由があった。

一つ目はトレッキングの二日目の午後以来、胃腸の調子が悪くなってしまっていた事。

二つ目はイリアが真面目で無口なので、二人だけで会話が持つのか心配だったからである。

昨夜だって、ひたすら黙々とシーシャを吸ってたじゃ無いか?
その間私はひたすら蚊に血を吸われまくっていたさ。

夜になってから、ストリートでタクシーを捕まえてランドリーショップに向かう。
なんとか無事パンツを回収することが出来た。

ホテルに戻ってからイリアに連絡を入れて、また昨夜と同じ店に向かう事にした。

やっぱり全然食欲がない。

胃腸はまだ不調なままだ。

イリアはいつもメイン料理と併せてサラダを注文する。
それから思い出したようにビールを注文するイリア。

アルコールすらも飲みたい気がしない私はお身体に優しいマンゴージュースだけを注文した。

興醒めもいいとこだろう。
私ならマンゴージュースを注文する奴と向かい合わせで酒など飲みたくない。

意外に会話が弾むイリアと私。

そろそろ帰ろうか?

2時間ほどレストランで食事を楽しんだ後で、ホテルに帰る事にした。
マンゴージュース一杯で二時間も粘ったのはこれが初めてだ。

翌朝、少し早い飛行機便でカトマンズへ戻るイリアからメッセージが入った。

イリア「朝食に行こうよ」

普段寡黙なくせにぐいぐい来るイリア。

出発まで時間があまりないイリアと一緒に湖畔で朝食を摂って、それからさよならした。

こうしてすべての友が去り、そして一人になった。

続く・・・

にほんブログ村 旅行ブログ 海外旅行へ
にほんブログ村

ABOUT ME
藍井 隆
アラフォーにて失意の失職、屈辱に塗れて人生のどん底を味わう。 その後三年間を期限とした計画的無職”三年寝太郎計画”を経て、現在アラブ首長国連邦ドバイ在住、日系企業ドバイ支社代表、趣味は世界旅行。 著書:三年寝太郎アラフォー無職世界放浪記

POSTED COMMENT

  1. 匿名 より:

    一体 彼はどうしたのだろうか?
    何か行き違いがあったのかな?
    荷物を持つと言ったけど実際に持ってみたらすごく辛くったとか?
    荷物を持ったんだから水はいいだろうとか?

    こういうのは教育も育ちも関係なく、ちょっとしたことの積み重ねなのかなとも感じる🤔

    • 藍井 隆 より:

      コメント有難う御座います。
      そうですね、積み重ねでしょう。
      言いたかったのは素直な気持ちを伝えてこそ友、それを理解しようと努力してこそ友だと思うということです。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です